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幼小受験 理英会/どんちゃか幼児教室 入試対策室 室長 久野 康晴 (ひさの やすはる)

理英会が持つ膨大な学校情報や入試情報を実際の指導の場でどう活用するかという観点で日々知恵をしぼる。
いわば合格に向けての作戦情報本部長。現在の小学校受験に携わるまでに中学校受験、高校受験、そして大学受験とすべての受験指導に携わってきた経歴を持つ。
現在も年中クラス、年長クラスの入試対策授業を担当し、情報と理論と現場での実践の融合を目指している。
幼児期の豊かな体験や経験を伴う学習が非認知能力を育てる、という持論がある。

2023年度小学校入試(2022年秋実施)では、一時期減少気味だった行動観察の項目が、
多くの学校で戻ってきている印象を受けました。これは昨年に続く傾向です。
行動観察は、集団での課題遊び、競争ゲーム、自由遊びなどを通じて友だちとの関わりを見るのですが、
コロナ禍で実施を取りやめた学校が多かったのです。

小学校受験の内容は机上のペーパー中心でないところに奥深さがあります。
そんな小学校受験の主な考査項目は次の6つです。

上記の考査項目を通して見られるのは、子どもの点数で表せないさまざまな能力や子どもらしさです。
子どもの能力には、ペーパーの問題に正しく解答できる力のように、明確に数値化できるものもあります。
その一方で、数値化できないものもたくさんあるのです。
「運動」と言ってもアスリートになることを求めるようなものではありませんし、
「絵画制作」も芸術家になることを求めているようなものではありません。
「正or誤」「勝or負」のような単純な二元論で判断するのではなく、柔軟な見方が必要になります。
具体的には次のような観点です。
ご家庭でお子さまの成長を見守る際の参考になれば幸いです。

子ども一人ひとりの心の成長や性格によって違ってくるであろう、
子ども自身が考えて行動するプロセスこそ、ぜひ見て欲しいと考えています。

そこで、2022年秋の小学校入試の中から、小学校受験らしい入試項目を3つ取り上げて解説してみたいと思います。

これら3つの考査では、特に子どもたちのがんばる姿勢やコミュニケーション力など、
数値化できない能力である非認知能力を見ることができます。

先生1名に対して、子どもを1~3人程度ずつみる個別形式の考査では、
子どもの数値に表れにくい能力や子どもらしさを見ることができます。
個別形式で考査を実施するのは、幼児の点数では表現できない
子どもの力を見てあげたいという考えの表れだと思います。
ただ、受験者数によっては、それがなかなか、かなわない学校もあります。

考査に個別形式を取り入れている学校をいくつかご紹介します。

個別形式の考査を行ったことのある私立小学校をご紹介します。

今年度を含め、これまでの出題内容の一部をご紹介します。

個別形式で一般的なペーパー問題を実施
指示制作、指示行動

表現課題

絵カードを見て先生の質問に答える(カードに出てくる人物の気持ちなど)
複数の絵カードを順番に並べて、お話をつくる

立体構成(パターンブロックで見本通りの形をつくる など)

ひも通し、ひも結び

箸の使い方(豆運び・ビーズ など)

道具箱の片付け

スモック、エプロンの着脱

ペーパー問題では、子どもが答えを出すまでの過程を見ることで、
現時点での能力、理解力、そして、がんばる力がよく分かります。

表現課題や指示制作、指示行動では、面接での質問と同様に、先生のことばを理解できるか、
その上で自分の考えを言うことができるか、指示通りに行動することができるか、
つまりは小学校で集団生活ができるかを見ることができます。

絵カードを使ってお話をさせる課題は、複数の学校で実施されていますが、
今年の桐蔭学園小学校では、以下のような出題がありました。

桐蔭学園小学校

子どもの表現力や想像力を見るとてもシンプルな形式でした。
子どもに写真を見せて「この写真に名前をつけましょう」
・ランドセルを背負った男の子と女の子が花を持って走っている写真・女の子がお祈りをしている写真・入道雲の写真

行動観察では、学校での集団生活を見据えて、他の人のことを考えられるか、
思いやりがあるか、自分勝手なふるまいで他の人に迷惑をかけないか
などが見られます。

人の話を聞くことに加え、自分の意見をしっかりと伝えて、
他者と協力することができるかどうか
を行動観察では見ることができます。

考査では、文字通り自由に遊ぶ自由遊び、テーマが決められた課題遊び、
チームで競い合う競争ゲームなどが行われます。

競争ゲームは子どもの性格や生活の中で身に付けた知恵が表れやすいです。
また、正解のない問題に、自分の頭で考え、また仲間と相談しながら考え、
力を合わせて立ち向かっていく姿勢が表れます。

以下、今年のいくつかの学校の競争ゲームの出題例です。

桐蔭学園小学校

長いひもをつくる(画用紙、トイレットペーパーの芯、マスキングテープ、輪ゴム、モールなどを使用)

高く積み上げる(カプラ、割り箸、モールなどを使用)

成城学園初等学校

キャップ積み競争

雙葉小学校、聖心女子学院初等科

紙コップタワーづくり

自由遊びはシンプルですが、ふだんの子どもの様子がよく分かります。
子どもにもよりますが、コロナ禍でマスクを着用し、
人となかなか自由に関わりにくい環境の中で育った子どもたちは、
コロナ禍前の子どもと比べると人と接する機会が大幅に減っているはずです。
マスクの着用で、お友達や先生の表情を見ることが十分にできません。
そのため、相手がしたいことや考えていることを想像することが
以前のようには上手くいかないこともあるかもしれません。

入試で子どもの自立度合いを見るため、生活に密着したことを実際にさせる学校があります。
また、さまざまな日用品や道具を使わせたり、後片付けをさせたりする課題もあります。
こういった課題では保護者が子どもに自立を促すように、自分のことを自分でやらせているか、
家の手伝いをさせている
かなど、ご家庭の様子を垣間見ることができます。

小学校に入学すると、自分のことは自分でやらなくてはいけません。
まさに小学校受験らしい考査だと言えます。

今年の出題例として、以下のようなものがありました。

学習院初等科

ポロシャツをたたむ

品川翔英小学校

机上にあるファイル、紙、靴、スモック、体操着などを片付ける

田園調布雙葉小学校

実物の鍋を見せて、これは何ですか?お母さんはこれを使って何をつくってくれますか?という質問

5つのおはじきをジプロックと箱に入れる

東京女学館小学校

雑巾をバケツの中で濡らしてしぼり、自分の座っている椅子と机を拭く
リボンをはずして靴下、靴をはく

雙葉小学校

テント作りで、カラーの布4色、クリップ、ひも、ガムテープを使う

早稲田実業学校初等部

洋服たたむ、給食着たたむ、ふろしきに包む、箱にしまう

近年、非認知能力ということばが注目されるようになりました。
非認知能力とは、積極性やコミュニケーション力などの点数で数値できない能力のことです。

調べると非認知能力は色々なことばで表現されています。

ことば自体が知られるようになったのは最近かもしれませんが、非認知能力そのものは昔からあったはずです。
近年、インターネットの普及やAIの発展の可能性など、世の中が変わっていく中で、
暗記型の知識ではなく、主体性、対話性を持って物事をやり遂げる力が重要視されるようになっています。
そのため、非認知能力がより注目されるようになりました。
これからの時代、もしかすると、人の仕事が、どんどんAIにとって代わられるかもしれません。
これまでも、これからも、ペーパーでいい点数をとるための学力だけでは世の中で通用しません。
個人の土台となる総合的な人間力である非認知能力を高めることが大切です。

これからは、総合的な人間力を土台として、何かに秀でた人が求められていくのではないでしょうか。
幼児期のさまざまな体験は、人格形成の基礎になります。
小学校入試は、決して机上の学習中心のものではありません。
そのことは、ご紹介した通り小学校入試の考査内容に表れています。
豊かな幼児期の体験を通じ、体験に基づく知識、ことば、行動をぜひ育んでください。
数値化できる点数だけを重視するのではない、子ども自身の力を育んでいきましょう。