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幼小受験 理英会 久野 康晴(ひさの やすはる)

理英会が持つ膨大な学校情報や入試情報を実際の指導の場でどう活用するかという
観点で日々知恵をしぼる。いわば合格に向けての作戦情報本部長。
現在、小学校受験に携わるまでに中学校、高校、そして大学受験とすべての
受験指導経験を持ち受験を知り尽くす。
現在も年中クラス、年長クラスの入試対策授業を担当し、
情報と理論と現場での実践の融合を目指し指導している。

一般的に、小学校入試の出題項目は大きく下記の5つです。
①ペーパー
②絵画制作
③運動
④行動観察
⑤個別
この記事では、出題項目の中から2023年の小学校入試で特徴的だった、行動観察について詳しく解説していきます。

小学校入試の特徴は、行動観察の観点が多いことです。これこそが中学受験や高校受験との大きな違いです。

絵画制作や運動で求められることは、アーティストやアスリートではなく、
課題への取り組み方=行動が見られていると言っていいでしょう。

理英会では、首都圏の私立小学校に対して、入試での選考比率についてアンケートを取ったことがあります。

回答していただいた中で、ペーパーが全体の5割を超える学校はありませんでした。

(多くの学校が非公表でした。どのような基準で選考しているのか受験生には伝えてよいと思います)

子どもの行動を見る観点は大きく2つあります。1つは「自立」、もう1つは「協調性」です。

小学校での学校生活を送る上で重要なことは次の2つです。
自分のことは自分でやれること=「自立」
他の子どもたちと一緒にできること=「協調性」

小学校の先生は、入試のときにそんな観点で子どもたちの行動を見ているはずです。

小学校入試の行動観察テストは大きく2つに分けることができます。
自立しているかを見る「個人での行動」
協調性があるかを見る「集団の中での行動」

個人での行動では、例えば、ペーパーテストで、始めと終わりの合図を守れているか、
隣の人を見ていないかなど、テストの前に必ず言われる注意事項ですが、
それらを聞いて理解して、約束を守れるかどうかが大事です。

また、絵画制作や運動では、うまくいかなくても、あきらめずに粘り強く頑張っているかが大切になります。

集団の中での行動は、先生の話を聞いて理解し、約束があれば守ることに加え、
他の子どもたちと協調性をもって関われているかが見られます。

幼児期の子どもに求められる協調性とはどんなことでしょうか。簡単に言えば、他の子どもと仲良くすることです。

少し細かく書いてみると次のようになります。
・自分の考えを他の子どもに話せる
・他の子どもの話を聞いてあげられる
・相手に譲ってあげることもできる
・乱暴なことばを使わない
・乱暴な行動をしない
・まわりを見て、動ける

ここからは、小学校入試での行動観察テストの出題内容を紹介していきます。

2023年秋の注目校は、面接を行わず行動観察を1次試験と2次試験の両方で実施した、洗足学園小学校でしょう。

動観察1と行動観察2での評価の観点は同じで、より深く子どもを観察したようです。

子どもたちからの聞き取ったテスト内容の一部を記します。

1次試験 1日目 行動観察1

・4~5人で相談して画用紙に好きな絵を描く
・のりで画用紙を貼っていく
・みんなでお話をつくり発 表

1次試験 2日目 行動観察1

・色画用紙でできたいろいろな形(△、□、○、長四角など)が描かれた色画用紙が数枚ずつかごに入っている
・相談して、それらを合わせてロボットをつくる
・カードにクーピーペンで色を塗り、のりで貼る

2次試験 男子 行動観察2

・1チーム7~8人、1教室5~6チーム
・自分が呼んでほしい名前(ニックネーム)を決める
・ボールを持って、自分が決めた名前を発表する(発表したら、ボールを隣の子に渡す)
・椅子から立ち、他の子どもとどんどんジャンケンをする
・勝った方が「私の名前は〇〇です。あなたの名前は何ですか?」と聞き、負けた人は答える

カード発表ゲーム

・ミシン目に沿ってカードを切り、4枚にする
・トランプのババ抜きのようにカードで引いていく
・引いた人はカードの絵に合う質問をする、カードを引かれたほうが答える

パワーアップゲーム

・3~4人のチームに分かれて、先ほどのカードゲームのやりとりから、
・チームの中で1人、問題を言う人を決め、その人への問題をチーム全員で発表
・もう1つのチームはその答えを全員一緒に発表

この課題では、先生の話だけでなく、お友だちの話をしっかり聞いてあげる必要があることがポイントですね。

先生の話はしっかりよく聞く子どもはたくさんいるかもしれませんが、子どもたちだけになると、
自分のことに夢中になり、お友だちの話が聞けなくなる子どもは少なくありません。おもしろい課題だと思います。

その他、みんなで協力して何かをつくる集団制作の課題をピックアップしてみました。
(東京、神奈川の小学校から抜粋、五十音順に記載)

青山学院横浜英和小学校

4人で、お手本と同じようにロープで形をつくる

関東学院小学校

5~6人で、みんなが行きたくなる動物園をつくる

慶應義塾幼稚舎(男子2日目)

積み木を六角形の板にのせて運び、高く積む
積み木を使って、チームで好きなものをつくる

光塩女子学院 初等科

4~5人でアクセサリーづくり

サレジアン国際学園目黒星美小学校

4人で竜宮城が描いてある画用紙に絵を描く

昭和女子大学附属昭和小学校

4人チームでブロックを使って机と机の間を渡す橋をつくる

東京農業大学稲花小学校

5人で公園づくり
公園には何があったらいいのかチームの友だちと話し合う
かごの中にある紙に公園にふさわしいものを描く
描いたものを模造紙にのりで貼り、周りに絵を描いてもいい
チームごとに発表(自分が作ったものを前に出て話す)

その他、スーパーマーケットづくり、はたけづくり、おうちづくりなど

桐朋学園小学校

ジョイントマットを使っての秘密基地づくり

東洋英和女学院小学部

5人で誕生日の先生に渡すものをつくる

自由遊びは多くの学校で取り入れられている課題で、ありのままの子どもたちを知るのに適しています。

時間が長くなればなるほど、いつもの子どもの姿を見ることができます。

課題が設定された行動観察テストでは、過去の出題例に従って、子どもたちが幼児教室で訓練されています。

よくある紙コップ積みやボール運び などは幼児教室の授業で必ず扱われているでしょうし、
他の子どもへの声のかけ方なども指導されているのがふつうです。

自由遊びも幼児教室では指導されていますが、課題が決まっているテストより、
自由遊びのほうが素の子どもを見ることができるでしょう。

自由遊びが実施された学校を挙げておきます。

個人の自立を見る課題もあります。

箸で小豆運び、ビーズ運び、ブロック運び、ビーズひも通し、風呂敷つつみなど、
小学校入試で巧緻性などと表現されるものではなく、生活習慣といえるものをピックアップしてみます。

学習院初等科

道具箱の片付け
スモッグへの着替え

暁星小学校(2次)

個別でコップの水を半分に分ける

晃華学園小学校

配膳(茶碗、汁椀、コップ、箸、箸置き、皿)
給食着(ボタン3つ)をハンガーから取り、着る、脱ぐ
スモッグ、バンダナをたたみ、かごに入れる

白百合学園小学校

雑巾しぼり、拭く、袋に入れてしばる

成城学園初等学校

おしぼりタオルをきれいに干す

田園調布雙葉小学校

洋服ハンガーかけ

明星小学校

道具箱の片付け(絵本2冊、コピー用紙2枚)

早稲田実業学校初等部

半袖ポロシャツを着る、長袖ポロシャツを着る

小学校入試は「字が読めない、字が書けない、計算ができない」幼児を対象におこなわれます。

その点では小学校入学前に、ペーパー重視で学力を見るより、
行動観察重視で学校での集団生活ができるかを見るほうが適切だと思います。

例えば、桐蔭学園小学校では、以下のテストが行われます。
総合観察テスト
(児童面接、自由遊び、一斉活動を含む)
知能テスト
(言語・思考等を測るペーパーテスト)
説明会などでは、総合観察テストを重視する方針が話されています。

今ある仕事がAIなどに取って代わられるかもしれないこれからの時代に、
テストに出る問題の解き方や知識を覚えてきただけの子どもではおそらく対応は難しいのではないでしょうか。

どう変わっていくか分からない時代だからこそ、
精神面が強い子ども」「ちょっとやそっとのことでは折れない強い心を持っている子ども」に育ってほしいです。

そして、自分の力で臨機応変に問題に対応して解決していく子どもを育てていきたいものです。