https://www.rieikai.com

2020年秋に実施された2021年度の小学校受験の内容をふまえつつ、
小中高大学のすべての受験指導にたずさわってきた私の経験から、
大学進学まで見据えた幼少期の子育てで大切なことを記します。

どんちゃか幼児教室/幼小受験 理英会 ひさの やすはる 30年を超える塾の現場指導で、小学・中学・高校・大学受験のすべてを経験。
そこでの生徒の指導経験、保護者との指導経験を活かし、
現在は幼少期の子どもたちの成長をサポートする小学校受験指導に関わっている。

まず、今日の教育について整理してみましょう。
2020年、初等教育および中等教育における教育課程の基準となる学習指導要領が改訂されました。
10年に1度、改訂があります。

小学校では2020年度から導入されています。
中学校では2021年度から、高校では2022年度入学生から導入されます。

改訂の際に必ずと言っていいほど教育改革ということばが併用されます。
今回もこれまでと同様、教育改革のことばが飛び交い、大学入試の変化が大きく取り上げられました。

ご存知の通り、2021年1月に初めて実施された大学入試共通テストで、英語の試験方式や国語・数学における記述式問題の導入などがピックアップされて、現場の混乱ぶりが報道されたことがありました。
しかし、そこで本質を見失ってはいけません。

AIや5Gなどの技術革新、それに加え、今回のコロナ禍により、急速な社会の変化、情報化、グローバル化などは間違いなく進んでいきます。
それに柔軟に対応できる力を身に付けることは、今後、確実に求められていきます。

2020年度からの学習指導要領で教育改革の柱となっているのは次の3つです。

これらが、これからの時代に必要なものとして記されています。

これらの中で幼少期に特に大切に育んでいただきたいのは表現力だと考えています。
「表現」ということばを広辞苑で引いてみましょう。

「人間の内面にある思想・感情・感覚などを客観化し、表情・身振り・言語・音楽・絵画・造形などの外面的な形として表すこと。また、その表したもの。」

このように、広辞苑らしく表現してあります。

ここに書かれているように、表現することには「表情・身振り・言語・音楽・絵画・造形など」さまざまな形があります。

答えが一つではなく、さまざまな答えがあるもの=正解がないもの
これこそが幼少期の自由奔放さであり、小学校受験でも、とても大切なものではないでしょうか。

詰め込み教育ということばが使われていた時代と今では社会背景が変わり、世の中で求められる力が明らかに変わってきています。

授業で「来週、宇宙ってどんなところからお話してね」という課題を出したことがありました。
翌週、子どもにお話させてみると多くの子が「太陽があって、月があって、星があって…」と話してくれました。

常識的な答えで間違いではないのですが、子どもらしくはない答えでした。
そのことを保護者さまに授業後に話すと、ある保護者さまから「先生、正解は何ですか?」と質問されました。

「正解はないのです」

入試問題は対象年齢が上がるにつれ、当然、難易度が上がっていきます。
それにともない、対応するための知識や技能も増えていきます。
学習指導要領で「表現力」という柱が明確に立ったことにより、中学、高校、大学の各入試問題において、記述問題※が増える傾向にあります。

※科目横断的な知識をもとに、さまざまな思考・判断をし、それをまとめる問題を、ここでは簡易的に記述問題と記します。一方で、いわゆる解法テクニックで解答できる問題も少なくありません。
それが小学校受験と中高大学受験を大きく隔てるものになっています。

小学校受験は大きくは次の5項目で成り立っています。

ペーパーテストで一番大切なのは解法テクニックではありません。
問題文が文字になっていないので、先生のお話をきちんと聞くことができなければなりません。
また、隣の生徒の答えをみない、始めと終わりの合図を守る、などのルールを守れるかどうかが見られます。
解法テクニックが役に立つのはもっと先の話です。
※一部の学校のペーパーテストでは、いくつかの学習要素を組み合わせた複合型の出題がみられるなど、問題の多様化や深化がみられました。そういった学校には十分な対策が必要です。

幼少期には人の話をきちんと聞ける姿勢を身に着け、それを前提として、次の2つのことができるようになることが重要です。

小学校に入学すれば、保護者がキッズ携帯を持たせ、高学年にもなればスマホを持っている子もいる時代です。
これからもそれが減ることはないでしょう。

私は子どもの表現力を育む観点からはこの状況をとても危惧しています。

メールやLINEなどではコミュニケーションが自分のことばではなく、絵文字やスタンプなどの機械的な非言語でなされます。
感覚的には容易に理解できますし、操作もとても簡単で便利ですが、子どもたちがことばで表現すること、表記する機会が、年齢が上がるにつれ、搾取されていっているからです。

小学校入試で子どもの表現力が見られる場面は「面接」や「お話づくり」などです。
そこでは、子どもの個性や子どもらしい表現力が非常によく表れます。

また「絵画制作」で想像制作では子どもらしい想像力が表れます。
これらの課題ではペーパーテストと違って正解がないので、子どもたちの答えに大きな差が生まれてしまうのです。

○か×か、0か1かというレベルではなく、得点を越えて、その子自身に(はなまる)がつくことがあるのです。

ここで、具体的な問題例を挙げて、表現力について考えてみます。

「この絵を見て何を思いますか。なるべくたくさんお話して下さい。」

解答例を3つ示してみます。

絵に描いてあることを写実的に描写しただけです。

男の子と女の子の会話が入り、お話がいきいきしてきました。

男の子と女の子の会話に加えて、様子や気持ちを表すことばが入り、さらにお話がいきいきしてきました。

3つを比較してみて、どうでしょうか?
どれも不正解ではないですが、子どもたちの答えに大きな差が生まれていますね。

・宇宙おばけは、みんなに見つかってしまって泣いています。

① 「宇宙おばけの気持ちを考えて、宇宙おばけの絵を描きましょう」

② 「泣いている宇宙おばけを慰めるために、
あなたは何をしてあげますか。その絵を描きましょう」

宇宙おばけが泣いている絵は描けそうです。
でも、どんな泣き方をしているか、そこに子どもの個性や表現力が表れる問題です。
②の問題はどうでしょうか?
アタマの固い大人のほうが悩みそうな問題ですね。

幼稚園で動物たちが遊んでいるお話を聞いた後、カードを見ながら、さまざまな動物の指定された場面での気持ちを答える問題が出ました。

気持ちを表している顔を選ぶ問題はペーパーテストの話の記憶で出題されますが、気持ちを答える、話すことのほうが難易度は高いです。
子どもたちは言語を名詞から覚えていきます。

様子や気持ちを表すことばはそれにともなう体験がないと、なかなか身に付かないので子どもたちにとっては難しいのです。

面接でも、「好きな食べ物は何ですか」といった名詞で答えられる質問には回答しやすいですが、以下のように正解がない自由な答えを求められる問題は子どもたちを困らせてしまいます。

子どもは自分が経験したことや実感したことをもとに、さまざまなことを思い、自分の考えとして表現します。
大人になってからもそうです。

幼少期の頭がやわらかい時期を暗記やパターン学習などの早期教育に費やすのはとてももったいないことです。
身体を使った遊びや、視野の広がる経験、語彙を広げる家族の会話を大切にしましょう。

ふだんの遊びや生活の中に、何かを感じたり、何かに気付いたり、何かを試したり、何かを工夫したりする機会がたくさんあるといいですね。

そういったことが思考力や表現力を育む土台となるはずです。

表現力や想像力を育むために、幼少期にできる具体的な学習方法をいくつか記してみます。
ベースにしていただきたいとのは次の2つです。

他の人の話を聞くことで、自分が知らなかったことばや知識が増えます。
また、自分が未体験のことを感じることができます。
擬似体験ができるのです。
また、子どもに話をさせ、拙い表現をほんの少し修正してあげることで、子どものことばがバージョンアップしていきます。

絵本の読み聞かせをしているご家庭も多いと思います。
それによって、子どもは目と耳を刺激され、ことばや絵から表現力を身につけていきます。
また、自分が知らない世界や出来事からの擬似体験を通して、気持ちを感じたり、行動を学んだりすることができます。

多くの方が取り組まれている絵本の読み聞かせで、どなたでもできる簡単な3つの工夫を提案します。
それは次の3つの質問を取り入れることです。

子どもたちの答えが非常識なものであっても、大人の固いアタマで否定しないでくださいね。
じっくりと聞いてあげてください。
子どもの世界をできる限り、受け入れて肯定してあげることで、その子の世界は広がっていくはずです。
この3つの質問を加えていただくだけで、学習効果が飛躍的に高まります。

でも、この3つの中で、幼少期の子どもに難しい質問があります。
それは「この時、どんな気持ちだろう?」という質問です。

子どもたちは気持ちを表すことばをあまり知りません。
なぜかというと、それを感じる人生経験が少ないからです。
ここで絵本を通じた擬似体験の効果が出てきます。

絵本を通じて気持ちを表すことばだけでなく、行動についても学ぶことができるのがポイントです。
テレビ番組や動画でも同様の効果がありますが、その品質には注意が必要です。

また、子どもにことばを教えるとき、繰り返しことば※を教えることは言語感覚を身に付けるのに有効です。
※専門的には畳語と言います。
様子や気持ちを表す擬態語や擬音語に多いです。
わくわく、どきどき、いらいら など

今回、小学校入試だけでなく、その先の成長を思い描きながら、幼少期の子育てに大切なことを主に表現力という観点で記しました。

幼少期だからこそ、○か×かにこだわらないでください。
これからもぜひ(はなまる)がつく子どもらしい伸びやかさを大切に育んでいきましょう。

2021年度・小学校受験はコロナ禍の中、各小学校でさまざまな対策をして行われております。
学校によっては入試形態を変更して行われました。
それらの変更点については以下のリンク記事でまとめております。